大韓航空機出火事故の裏側にあるもの2016年05月29日 00:54

僕は割と長いあいだ航空会社の整備部門の取材をしていたので、この分野の技術には多少の知識があるのだが、そういう立場で今回の大韓航空機の出火事故をみると、けっこう奥深い問題があるような気がする。

まず事故の状況を整理しておくと、5月27日昼過ぎ、羽田空港を離陸しようと時速100km以上で滑走していた大韓航空の2708便(ソウル金浦空港行き)ボーイング777-300機の左側エンジン部分から出火したため、緊急停止した。原因はまだ調査中だが、わかっていることは以下の通り。

・エンジン内部は部品が外に飛び出して散らばるほどに激しく損傷している。
・このときエンジン外側のケースを突き抜けるほどの勢いだったため、カバーの一部が欠損した。

「燃料漏れによる異常燃焼が原因では?」と推測する専門家もいるようで、整備不良が疑われているのだが、僕はもうひとつ、整備のときにちゃんと純正部品が使われていたのかという点についても調べたほうがいいと思う。実は航空機の部品のような高い品質が求められるものにも粗悪なコピー品が流通しており、そのことが空の安全を脅かしているという指摘がある。2000年にフランスで起きたコンコルド機の墜落事故は直前に離陸した別の航空機が落とした部品によって引き起こされた可能性が高いのだが、この部品も正規品ではなくコピー品だったために脱落したのではないかといわれているほどだ。もし今回の事故でもエンジン内部で部品の異常が起きていたのだとしたら、疑いは充分にある(たとえばタービンの回転で発生する遠心力や振動に絶え切れず一部の部品が吹き飛んだとか)。

大韓航空は韓進グループという韓国で9番目くらいの規模の財閥に属している(ロッテグループの次の次あたり)。ところが、この韓進グループの経営状態が非常に悪い。借金が自己資産の何パーセントあるかという負債比率は昨年1月段階で452.4%に上り、これは韓国十大財閥のなかで最悪だ。というか他はぜいぜい40~100%なので、断トツに厳しいことになる。

足を引っ張っていたのがグループを支える二大企業のひとつ韓進海運で、ここは負債比率が1000%を超えていた。つまり資産の10倍以上の借金をしていたわけで、さすがに綱渡りも続かず、今年4月、韓進グループ会長の趙亮鎬氏は経営権を放棄して銀行などの債権者に共同管理を申し出ている(事実上の身売り)。しかし、それでグループの経営が楽になることはなく、大韓航空自体も多額の借金を返済するためにリストラや資産の売却を続けた結果、ついに「尻に火が着いた」のか、趙会長は先日、最高の名誉職である平昌オリンピック組織委員長を突然辞任したほどだ(娘のナッツ・リターン事件でも辞めなかったのに)。

そのような状況で、整備にまでちゃんとリソースが注ぎ込まれているか、疑問をもつのは当然だろう。整備士の人数は充分なのか? 安いコピー部品を使っていないのか? これからは厳しい目でみられることになる。

ちなみに日本ではあまり報道されていないのだが、韓国のメディアをいろいろ検索してみると(機械翻訳使用)、たとえば2010年9月から2011年1月までのあいだに大韓航空ではエンジンの欠陥と部品の故障による運航停止事故が10件も起きていて、会社ぐるみで整備の品質が問われていたことがわかる※。そのころから比べても経営状況はさらに悪くなっているのだから、今回のような事故がさらに広がらないように今後の動向を監視していくべきだろう。
http://biz.khan.co.kr/khan_art_view.html?artid=201101242213495&code=920401&med=khan

追記
今回の出火事故では乗客が緊急脱出するときに乗務員が日本語で誘導しなかったとか(日本の空港なのに)、通常は乗務員の役目である脱出シューターの下における補助を誰もしなかったため数人の負傷者が出たとか(真っ先に遠くに逃げた?)、未確認だが乗務員が荷物を持って脱出したという噂もあり(他人にあたると危険なので手ぶらが常識だ)、緊急時の対応にもいろいろ問題はありそうだ。

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