フランス旅行情報メモ6:フランス人が行列までして行くレストラン2019年02月13日 14:33

2018年12月23日の夜8時過ぎ
フランス人はあまり行列が好きではありません。駅で並ぶのは苦手だし、飲食店の前で、長時間、待つなんてありえない。そういう文化なのです。ところが、モンパルナスのステーキレストラン「Le relais de l'entrecote(ル・ルレ・ドゥ・ラントルコート)」(以下、RE)では、連日、こんな感じ。写真は午後8時ごろの光景で、この後、もっと並びます。

最近のパリの食事情を調べていたところ、この店が大人気だと知ったので、滞在中に足を運んでみました。開店は午後7時で、予約はいっさい受けつけないという強気の姿勢。なので7時10分くらいに行ったところ、すでにかなり混んでいたものの、まだ空席はあり、すぐに案内されました。フランス人の夕食は、通常、8時以降なので、その前であれば意外と大丈夫みたいです。

それでは、ここで何を食べられるのかというと、メニューはひとつしかありません。前菜のクルミ入りサラダとメインのステーキという「定食」だけなのです。デザートは複数用意されているものの、それさえ頼まなければ(最近はデザート抜きのフランス人も多い)、選択肢はステーキの焼き方(レアとかミディアムとかウェルダンとか)のみ。ワインも安いもの中心にそんなに種類はなく、食べものに関して我を通したいフランス人にとっては、あまり好ましくないスタイルといえます。

ところが、そんな頑固な店に、毎日、多くの人が押し寄せます。しかも、全員、料理にうっとりとしている様子。レストランであそこまで楽しそうな顔をする人たちを見たことがなかったので、驚いてしまいました(フランス人はアメリカ人ほど感情を露わにしない)。それにしても、彼らを虜にする理由はどこにあるのでしょうか。

REの料理について、まず言えるのは非常に保守的だということです。ステーキにかけてあるのはベアルネーズソース。バターと卵黄でつくる「あたたかいマヨネーズ」といった感じのソースで、エストラゴンで香りづけし、酢で味を調整します。フランス料理の伝統的なステーキソースであり、際立ったオリジナリティもスペシャリティもありません。

先ほど、フランス人は飲食店の前で行列をつくらないと書きましたが、実はひとつだけ例外があって、「今、話題の日本風の弁当屋」とか「新しいスタイルの餃子バー」といっためずらしい店(つまり、オリジナリティとスペシャリティで成り立っている)であれば、開店直後は並んだりします。しかしこれはあくまでイレギュラーであって、クラシックなメニューのステーキ屋に殺到したりはしないのです。

不思議な気分のまま店内を見回し、さらに届いた料理を口にしてみると、人気の理由が少しずつわかってきました。まずステーキですが、ものすごく柔らかい赤身肉で、フランス人がもともと好む(と言われる)「少し歯ごたえのある肉」とは正反対です。このあたりが斬新で、しかも昨今の健康志向に合っているのだと思います。もちろん、かなり厳選された牛肉のようで、味わいは抜群。メニューをひとつに絞ったことで、大量仕入れができ、安価に提供できるのでしょう。

また、ソースをたっぷりかけてくれるのも今のフランス料理ではめずらしいです。ステーキであれば、塩だけで食べさせる店がたくさんありますから。しかも、ベアルネーズソースをベースにしているものの、そこにスパイスなどがかなり加わっており(店では秘密のソースといっているらしい)、通っているうちにハマってしまうみたい。このため、お客さんたちは「もっとソースをかけて!」とねだるような顔でウェイトレスをみつめ、作業が終わったとたん、むさぼるように食べ始めます。濃い味のソースは肉にも付け合わせのフライドポテトにもよく合い、僕もうっとりしてしまいました。

ここまでの記述でわかるように、この店では料理を調理場で完成させてから運んでくるのではなく、客席でウェイトレス(全員女性で、しかも、かわいい。これも戦略?)が仕上げをしてくれます。大皿から肉とポテトを取って盛り付け、上にソースをかけてくれるのです。しかも、丁寧なことにステーキは冷めないように2回に分けて出される。これって、よほどの高級レストランでなければやってくれないサービスなので、お客さんは特別な待遇を受けたような気持ちになるのかもしれません。

そんなわけで、REは、年々、失われていくフランス料理の伝統を守りながら、質の高い料理とサービスを安価に提供できるシステムを完成させたことで人気店になったのです。ステーキとサラダのセットは26.5ユーロなので、グラスワインを飲んでも4000円ぐらい。パリの食事処としてはかなりリーズナブルなので、気になった人は、ぜひ、訪れてみてください。まちがいなく、おいしいことは保証します。

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