熊本地震その後2016年05月06日 04:51

少しあいだが空いたが、5月5日までの熊本地震の観察報告をしておく。
あいかわらず揺れは続いているものの、データをみる限り確実に弱まってきており、全体傾向としては安心していいと思う(ただし、今後、震度4程度の余震は、まだあるかもしれない)。その理由は、マグニチュードにある。
グラフはマグニチュード3以上のものだけを表示しているので、それなりに回数があるようにみえる。しかし、今なお頻繁に余震が続く2011年3月の東日本大震災では重大な余震としてチェック対象になっているのはマグニチュード5以上のものだ。熊本地震は活断層型の直下地震なので、もう少し注意深くなる必要はあるが、それでもマグニチュード4以上の余震だけを考えればいいだろう。となると、4月16日未明の本震と呼ばれるもの以降、着実に減衰していることがわかる(グラフのマグニチュード4以下を隠してみてほしい)。
マグニチュードは1増えると放出されるエネルギー量は30倍違うので、このグラフも「+1=+30」と考えてほしい。したがって、あえて小さなマグニチュードの余震にびくびくする必要はない。
熊本地震の直後、大きな余震が頻発したことから、「この地震が新たな地震を誘発してもっと広い範囲に影響するのでは?」といった不安をことさらのように強調したメディアがいくつもあった。もちろん、その可能性は完全には否定しないが、しかし地震のメカニズムを考えたとき、あまりにSF的な発想だと思う。
今回のような内陸地殻内地震は、地殻内部の歪みとして蓄積されたエネルギー(元をたどればプレート活動によるもの)が消費されることで起きる。「エネルギーの放出」なのだから、地震があるたびにリスクは減っていくと考えるのが科学的には正しい解釈だ。
もちろん蓄積されているエネルギーが今までの常識では考えられないほど大きければ別の地震を誘発するかもしれないが、その場合、余震もどんどん大きくなっていくはずである。今回、そこまでの徴候はみられないので、収束に向かっていると考えたほうが自然だろう(ただし、他の地震が近い時期に起きることはありえる)。
また、よく言われる「地震と活断層の関係」に関しても誤解が多いので、このブログで近々解説する。

熊本地震1カ月間の余震データ2016年05月15日 05:09

この1カ月間、被災地の方々は本当にがんばったと思う。
僕ができるのはこのくらいなので、客観的な余震のデータをまとめてみた。
気象庁がいう「今後少なくとも1か月くらいは、熊本と阿蘇地方で震度6弱程度、大分県中部地方で震度5強程度の余震が発生する可能性がある」というのはまちがいではないが、ただ、これはあくまで最大予測値であって、あとは各自、このデータをみながら判断してほしい。マグニチュード4より上だけで考えると、過去の余震データとそれほど違っていないように思うのだが・・・。

それだけに、次のニュースの内容に関しては、ちょっと疑問を感じる。

政府の地震調査委員会は13日、大きな地震の後に発表している「余震発生確率」の予測方法を見直すことを決めた。熊本地震で最大震度7の強い揺れが2度起きたことなどを受けた対応。
 「本震-余震型」の予測手法だけでは不十分として、最新の研究成果や計算方法を取り入れるほか、公表のあり方を検討する。おおむね3カ月で結論を出す方針だ。(毎日新聞 5月13日(金)23時36分配信 )

「本震-余震型」ではなく「予震-本震型」というケースは別にめずらしくない。それを含めて、今回の熊本地震は「これからの予測方法を変えなければ!」と大騒ぎするほどイレギュラーなのかなあ。規模は大きかったものの、過去のデータと比べてそれほど変わっていないように思うのだが(余震も法則通りに減衰しているし)。なので、もう少し冷静に対処してもいいのでは。
まあ、「規模が大きい」と「過去に例がない」とでは社会の受けとり方が違うので、後者のほうがいいと考える人がいるのだろうが。

掲載したグラフについて、再度、補足しておく。マグニチュードは1上がるとエネルギー量は約30倍になる。なので、上にいくほど強烈に強くなると理解してほしい(だから下限をM3にした)。

大韓航空機出火事故の裏側にあるもの2016年05月29日 00:54

僕は割と長いあいだ航空会社の整備部門の取材をしていたので、この分野の技術には多少の知識があるのだが、そういう立場で今回の大韓航空機の出火事故をみると、けっこう奥深い問題があるような気がする。

まず事故の状況を整理しておくと、5月27日昼過ぎ、羽田空港を離陸しようと時速100km以上で滑走していた大韓航空の2708便(ソウル金浦空港行き)ボーイング777-300機の左側エンジン部分から出火したため、緊急停止した。原因はまだ調査中だが、わかっていることは以下の通り。

・エンジン内部は部品が外に飛び出して散らばるほどに激しく損傷している。
・このときエンジン外側のケースを突き抜けるほどの勢いだったため、カバーの一部が欠損した。

「燃料漏れによる異常燃焼が原因では?」と推測する専門家もいるようで、整備不良が疑われているのだが、僕はもうひとつ、整備のときにちゃんと純正部品が使われていたのかという点についても調べたほうがいいと思う。実は航空機の部品のような高い品質が求められるものにも粗悪なコピー品が流通しており、そのことが空の安全を脅かしているという指摘がある。2000年にフランスで起きたコンコルド機の墜落事故は直前に離陸した別の航空機が落とした部品によって引き起こされた可能性が高いのだが、この部品も正規品ではなくコピー品だったために脱落したのではないかといわれているほどだ。もし今回の事故でもエンジン内部で部品の異常が起きていたのだとしたら、疑いは充分にある(たとえばタービンの回転で発生する遠心力や振動に絶え切れず一部の部品が吹き飛んだとか)。

大韓航空は韓進グループという韓国で9番目くらいの規模の財閥に属している(ロッテグループの次の次あたり)。ところが、この韓進グループの経営状態が非常に悪い。借金が自己資産の何パーセントあるかという負債比率は昨年1月段階で452.4%に上り、これは韓国十大財閥のなかで最悪だ。というか他はぜいぜい40~100%なので、断トツに厳しいことになる。

足を引っ張っていたのがグループを支える二大企業のひとつ韓進海運で、ここは負債比率が1000%を超えていた。つまり資産の10倍以上の借金をしていたわけで、さすがに綱渡りも続かず、今年4月、韓進グループ会長の趙亮鎬氏は経営権を放棄して銀行などの債権者に共同管理を申し出ている(事実上の身売り)。しかし、それでグループの経営が楽になることはなく、大韓航空自体も多額の借金を返済するためにリストラや資産の売却を続けた結果、ついに「尻に火が着いた」のか、趙会長は先日、最高の名誉職である平昌オリンピック組織委員長を突然辞任したほどだ(娘のナッツ・リターン事件でも辞めなかったのに)。

そのような状況で、整備にまでちゃんとリソースが注ぎ込まれているか、疑問をもつのは当然だろう。整備士の人数は充分なのか? 安いコピー部品を使っていないのか? これからは厳しい目でみられることになる。

ちなみに日本ではあまり報道されていないのだが、韓国のメディアをいろいろ検索してみると(機械翻訳使用)、たとえば2010年9月から2011年1月までのあいだに大韓航空ではエンジンの欠陥と部品の故障による運航停止事故が10件も起きていて、会社ぐるみで整備の品質が問われていたことがわかる※。そのころから比べても経営状況はさらに悪くなっているのだから、今回のような事故がさらに広がらないように今後の動向を監視していくべきだろう。
http://biz.khan.co.kr/khan_art_view.html?artid=201101242213495&code=920401&med=khan

追記
今回の出火事故では乗客が緊急脱出するときに乗務員が日本語で誘導しなかったとか(日本の空港なのに)、通常は乗務員の役目である脱出シューターの下における補助を誰もしなかったため数人の負傷者が出たとか(真っ先に遠くに逃げた?)、未確認だが乗務員が荷物を持って脱出したという噂もあり(他人にあたると危険なので手ぶらが常識だ)、緊急時の対応にもいろいろ問題はありそうだ。