回転寿司にはなぜ醤油皿が置いてないのか2016年04月05日 03:22

今日は少しテーマを変えて。

回転寿司の店に醤油を入れる小皿が用意されていないと不満に感じたり、なかには苦情をいう人までいるらしい。ネット上でも「何故、○○という回転すし屋には醤油皿がないんですか?」といった疑問がたくさん書き込まれているところをみると、この問題は、案外、根深いようだ。しかしこれは、寿司という料理を正しく理解していないから起きる勘違いである。

今のような握り寿司、つまりネタとシャリをその場で合わせるかたちの寿司が食べられるようになったのは江戸時代末期だ(1824年ごろといわれる)。まだ生ものは少なかったとはいえ、ネタによっては酢で締めるか醤油に漬けただけの状態で提供されたようで、冷蔵庫のない時代にすごいことだと思う。それだけ流通が発達していたのだろう。

初期の握り寿司が今のものと決定的に違うのは、ひとつひとつのサイズがかなり大きかったという点だ。両国の江戸東京博物館には江戸時代の寿司屋台が再現されており、そこに展示されたサンプル品は握り拳ほどあって、2つか3つつまめばお腹いっぱいになりそう。ちなみに調理したネタには味が付いていたし、酢飯も今より塩味が強かったので、最初のころは醤油を付ける習慣はなかったらしい。

その後、調理しない生の魚が少しずつネタに使われるようになってくると、刺身を食べるのと同じように醤油の必要性が生じてきた。ただし、寿司のサイズはまだ大きく食べる個数は少なかったし、生のネタも一部だけだったのですべての客の前に小皿を置くまでもない。このためカウンターの一カ所に大きめの容器(皿ではなく椀など)が置いてあり、そこに共有の醤油がなみなみ入れられていたという。感覚的には大阪の串カツ屋における「二度漬け禁止」のソースに近い。

時代が明治から大正に変わるころ(1910年あたり)、日本でも製氷会社が次々と誕生し、寿司ネタの多様化が進む。すると「いろいろなネタを楽しみたい」という要望から握り寿司のサイズは徐々に小さくなり、一回の食事で醤油を付ける回数も増えていった。その結果、「カウンターに1個」の醤油では足りず、今のような小皿で提供するスタイルが一般的になっていくのである。ただし、ここが重要なのだが、これはあくまで苦肉の策というか、次善の策に過ぎない。

実際に醤油皿を使って寿司を食べていると、実に不便なことに気づく。ネタの上にショウガなどの薬味が乗っているとうまく付けられないし、軍艦巻きも同じだ。また、接触面が見えないので付ける醤油の量を調整するのも難しい。このため高級店では客の前に出される前に刷毛で醤油を塗ってくれるところが多く、手間さえ惜しまなければこの方法がベストだろう。

もちろん価格を抑えなければならない大衆店ではそこまでできず、最後の味付けは客にまかせることになる。それなら1席ごとに醤油の瓶を置いてくれれば上からかけられるので便利なのだが、出前中心で席の回転がそれほど速くない店ではたくさんの醤油瓶を用意すると使い切れずに劣化していってしまう。そんな理由から今でも小皿スタイルが主流になっているのであって、これが理想や最終形ではないことを知るべきだろう。

一方、回転寿司店は薄利多売のビジネスモデルだから、1席を何人もの客が次々と利用する。したがって醤油瓶をたくさんカウンターに並べておいても大丈夫だし、登場してすぐのころは店側も「そのほうが便利でしょ」と小皿を導入する考えはなかったように思う。

ところが、あるときから回転寿司で一般の寿司屋と同じ感覚を味わいたいと考える「贅沢な」客が増えてきたのと、どういうわけか回転寿司評論家を称する人たちが「醤油用の小皿を用意している店のほうが本格的でおいしい」といった的外れの解説をするようになったことから、多くの店が仕方なく置くようになった。それでも賢明な回転寿司店ではそんなことに無駄なコストを使うぐらいならネタを少しでもよくしたほうが競争力が高まると考え、徐々に小皿を廃止しつつあるようだ。それにも関わらず、未だに「なぜ醤油皿がないのか?」と憤る人は、もう少し冷静に考えてみてほしい。あなたは本当に、醤油皿は醤油瓶より寿司を食べるのに向いていると思っているのだろうか?

コメント

_ Yusulaco Shimizu ― 2016年04月14日 12:29

初めまして。私は、北海道伊達市で生まれ育ちました。私は醤油皿を使いません。理由は、醤油そのものを使わないからです。でも、みんなに、殺菌作用があるとか色々言われたのでつけてみることにしました。石川県でお醤油をなめた時、とても美味しいので醤油を好きになりました。だから醤油皿を使うことにしました。醤油皿って、小さいですよね。醤油皿の中でお寿司が崩れた時、シャリが醤油のお風呂の中に入ったみたいになって色々バラバラになりました。醤油皿、私はいらないです。

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