タイ、バンコク旅行情報メモ4:深刻なドラッグ問題をわかりやすく解説?2019年07月14日 02:39

効果はあるの?
BTSエカマイ駅近くにあるサイエンス教育センター(Science Center for Education)はタイを代表する科学博物館で、ところどころに予算的な厳しさは見られるものの、子供たちへの教育効果を考えた「がんばった展示」は評価できると思います。なかでも「なるほど」と新たな発見をさせてくれるのが麻薬や違法ドラッグの問題をわかりやすく解説してくれるコーナー。日本ではひとくくりにされそうな個々の薬物に関して、概要・効果・身体への影響・実物(模型?)をそれぞれていねいに紹介しており、かなり勉強になります。もっとも、あまりに詳しすぎることから、「これって、やりたい人にとっても有効な情報なのでは?」と邪推してしまうほどではありますが(笑)。

興味深いといえば、コーナーの入り口で流されているアニメがかなりぶっ飛んでいます。登場するのは中学生くらいの男女で、女の子のほうが魔女みたいな人にだまされて怪しいクスリを体験させられてしまうのです。それを男の子が発見し、助けたところで「こうならないように、みなさん正しい知識を持ちましょう」と忠告されるのですが、冷静に考えると、この時点ですでに女の子はヤバいものを体験しちゃっているわけで、もっと早く救ってあげたことにしたほうがよかったんじゃないかなあ(日本だったら大問題になりそうです)。

こんな内容になったのはタイ当局のチェックが緩いせいではなく、違法ドラッグ問題が本当に深刻だからなのではないかと思います。つまり、「一度はやってしまった人」が国民の大半を占めるほどに蔓延しているからこそ、スタート地点が後退しているのではないでしょうか。

さらに「タイっぽいなあ」と感じたのが、「違法ドラッグをやるとこんな非現実的な感覚に陥ります」と体験させる展示です。通路を囲むカラフルな円筒と円盤が回転することによりビックリハウスのように平衡感覚が失われ、吐き気さえするほど。施設側としては「こんな異常な感じがするのは毒性が高いクスリだからです」と強調したいのだと思いますが、期待通りになっているのかなあ。見かけた限り、現地の人はみんなアトラクション気分でを楽しんでおり、注ぎ込んだ予算のわりには教育効果があるようには思えませんでした。

そんなところも含め、日本と違う感覚で世界の違法ドラッグ事情を学ぶにはいい機会ですから、バンコクで時間を持てあました人は、ぜひ一度、足を運んでみてください。とりあえず、入場料以上には楽しめる施設です。

ジャングルジム火災事件、白熱電球だけの問題なのか?2016年11月08日 03:57

イベント展示物だった木製ジャングルジムの火災事件、被害にあわれたお子さんのご冥福を心からお祈りする。

当初は「予期できなかった事故」といったトーンの報道がなされたので、僕も「木製とはいえ、そんなに急激に燃えるわけではないから、いくつかの不幸が重なったのでは?」と軽く考えていたのだが、上の写真を見て驚いた。そして即座に「これはだめだろう」と確信する。

ニュースに出てくる事故直前の映像では子供たちがだいぶ遊んだせいか木くずが減ってきているが、製作してまもないと思われるこのシーンではたっぷり詰まっている。そしてこれを見ると、まるで「木の枠を燃やそうとする準備」をしているようだ。木くずは紙より燃えやすいので焚きつけとしては最適である。そんなものを満載したら、火が着いた場合、一瞬で燃え広がるのは当然だ。

どんな作品でも展示する自由はある。しかし、そこになんらかのリスクがあるなら、充分な対策をしておかなくてはならない。この場合でいえば上からシャワーを浴びせられるような散水装置を配置し、いざというときにはスプリンクラーのように燃え広がるのを遅らせるとか、そういった工夫だ。他にも充分な数の消火器と水バケツ、それにちゃんと対応できるスタッフによる監視は不可欠だったと思う。

報道では白熱電球を利用したことばかりに疑問が集中した。たしかにそれが直接の原因なのかもしれないが、ただ、照明を使わなかったとしてもこの作品には問題が残る。なぜなら、もし不審者が近づいてライターなどで放火したら同じ結果になるからだ。とにかく一瞬で燃え広がる構造物である以上、あらゆる事態を想定して対策をしておくのは設置者の義務である。

不思議なのは、この作品が建築学の関係者によって製作・設置されていたという点だ。彼らは当然、防火に関する技術や法規の知識を専門家としてもっているはずで、こんな構造であれば危険性が高いことは察知していなければならない。「後出し」だと思われるのを承知のうえで書くと、もし僕が事前にこの場にいれば「燃えやすそうだが対策は万全なのか?」と質問していたと思う(だって、どう考えても焚き火直前の風景にしか見えない)。それくらい危険な構造物であり、だからこそ白熱電球を近づけたなんてもってのほかなのだ。

製作・展示に関わったのは日本工業大学の生徒やスタッフだそうで、技術系なのに教授も含めてひとりもこの作品の火災リスクに気づかなかったとしたらプロ失格である(これは建築や設備の関係者ならみんな感じたと思う)。さらにいえば、このイベントには関係者以外の専門家もたくさん来場し、作品を見ているのに、なぜ誰もアドバイスしなかったのか?

最後に「後出し」ではない指摘をさせていただく。ジャングルジムのような遊具で視界を塞ぐ物体(今回は木くず)を付け加えること自体、かなり乱暴な冒険だ。前が見えにくい分、頭をぶつける危険性は著しく高まるのだから、このような作品を展示したければ一般の参加者に遊ばせるべきではない。

そもそも前衛を目指す芸術作品を判断力も未発達な幼い子供に自由に開放したという点において、この人たちは本質をわかっていない。前衛芸術とは今を徹底的に否定したところから始まるのだから、作品の出来がいいほど子供が安全に遊べるわけないのである。

もし、本当に自信のある作品を子供に使ってもらう場合には、常に監視を怠らない。少なくとも真っ当な美術館ではそうしているのであって(金沢21世紀美術館のスイミング・プール上階では落ちても大丈夫なように警備員が見張っている)、そんなことも知らなかったことが、「前衛」の作者として相当に恥ずかしいと思う。

大韓航空機出火事故の裏側にあるもの2016年05月29日 00:54

僕は割と長いあいだ航空会社の整備部門の取材をしていたので、この分野の技術には多少の知識があるのだが、そういう立場で今回の大韓航空機の出火事故をみると、けっこう奥深い問題があるような気がする。

まず事故の状況を整理しておくと、5月27日昼過ぎ、羽田空港を離陸しようと時速100km以上で滑走していた大韓航空の2708便(ソウル金浦空港行き)ボーイング777-300機の左側エンジン部分から出火したため、緊急停止した。原因はまだ調査中だが、わかっていることは以下の通り。

・エンジン内部は部品が外に飛び出して散らばるほどに激しく損傷している。
・このときエンジン外側のケースを突き抜けるほどの勢いだったため、カバーの一部が欠損した。

「燃料漏れによる異常燃焼が原因では?」と推測する専門家もいるようで、整備不良が疑われているのだが、僕はもうひとつ、整備のときにちゃんと純正部品が使われていたのかという点についても調べたほうがいいと思う。実は航空機の部品のような高い品質が求められるものにも粗悪なコピー品が流通しており、そのことが空の安全を脅かしているという指摘がある。2000年にフランスで起きたコンコルド機の墜落事故は直前に離陸した別の航空機が落とした部品によって引き起こされた可能性が高いのだが、この部品も正規品ではなくコピー品だったために脱落したのではないかといわれているほどだ。もし今回の事故でもエンジン内部で部品の異常が起きていたのだとしたら、疑いは充分にある(たとえばタービンの回転で発生する遠心力や振動に絶え切れず一部の部品が吹き飛んだとか)。

大韓航空は韓進グループという韓国で9番目くらいの規模の財閥に属している(ロッテグループの次の次あたり)。ところが、この韓進グループの経営状態が非常に悪い。借金が自己資産の何パーセントあるかという負債比率は昨年1月段階で452.4%に上り、これは韓国十大財閥のなかで最悪だ。というか他はぜいぜい40~100%なので、断トツに厳しいことになる。

足を引っ張っていたのがグループを支える二大企業のひとつ韓進海運で、ここは負債比率が1000%を超えていた。つまり資産の10倍以上の借金をしていたわけで、さすがに綱渡りも続かず、今年4月、韓進グループ会長の趙亮鎬氏は経営権を放棄して銀行などの債権者に共同管理を申し出ている(事実上の身売り)。しかし、それでグループの経営が楽になることはなく、大韓航空自体も多額の借金を返済するためにリストラや資産の売却を続けた結果、ついに「尻に火が着いた」のか、趙会長は先日、最高の名誉職である平昌オリンピック組織委員長を突然辞任したほどだ(娘のナッツ・リターン事件でも辞めなかったのに)。

そのような状況で、整備にまでちゃんとリソースが注ぎ込まれているか、疑問をもつのは当然だろう。整備士の人数は充分なのか? 安いコピー部品を使っていないのか? これからは厳しい目でみられることになる。

ちなみに日本ではあまり報道されていないのだが、韓国のメディアをいろいろ検索してみると(機械翻訳使用)、たとえば2010年9月から2011年1月までのあいだに大韓航空ではエンジンの欠陥と部品の故障による運航停止事故が10件も起きていて、会社ぐるみで整備の品質が問われていたことがわかる※。そのころから比べても経営状況はさらに悪くなっているのだから、今回のような事故がさらに広がらないように今後の動向を監視していくべきだろう。
http://biz.khan.co.kr/khan_art_view.html?artid=201101242213495&code=920401&med=khan

追記
今回の出火事故では乗客が緊急脱出するときに乗務員が日本語で誘導しなかったとか(日本の空港なのに)、通常は乗務員の役目である脱出シューターの下における補助を誰もしなかったため数人の負傷者が出たとか(真っ先に遠くに逃げた?)、未確認だが乗務員が荷物を持って脱出したという噂もあり(他人にあたると危険なので手ぶらが常識だ)、緊急時の対応にもいろいろ問題はありそうだ。

熊本地震1カ月間の余震データ2016年05月15日 05:09

この1カ月間、被災地の方々は本当にがんばったと思う。
僕ができるのはこのくらいなので、客観的な余震のデータをまとめてみた。
気象庁がいう「今後少なくとも1か月くらいは、熊本と阿蘇地方で震度6弱程度、大分県中部地方で震度5強程度の余震が発生する可能性がある」というのはまちがいではないが、ただ、これはあくまで最大予測値であって、あとは各自、このデータをみながら判断してほしい。マグニチュード4より上だけで考えると、過去の余震データとそれほど違っていないように思うのだが・・・。

それだけに、次のニュースの内容に関しては、ちょっと疑問を感じる。

政府の地震調査委員会は13日、大きな地震の後に発表している「余震発生確率」の予測方法を見直すことを決めた。熊本地震で最大震度7の強い揺れが2度起きたことなどを受けた対応。
 「本震-余震型」の予測手法だけでは不十分として、最新の研究成果や計算方法を取り入れるほか、公表のあり方を検討する。おおむね3カ月で結論を出す方針だ。(毎日新聞 5月13日(金)23時36分配信 )

「本震-余震型」ではなく「予震-本震型」というケースは別にめずらしくない。それを含めて、今回の熊本地震は「これからの予測方法を変えなければ!」と大騒ぎするほどイレギュラーなのかなあ。規模は大きかったものの、過去のデータと比べてそれほど変わっていないように思うのだが(余震も法則通りに減衰しているし)。なので、もう少し冷静に対処してもいいのでは。
まあ、「規模が大きい」と「過去に例がない」とでは社会の受けとり方が違うので、後者のほうがいいと考える人がいるのだろうが。

掲載したグラフについて、再度、補足しておく。マグニチュードは1上がるとエネルギー量は約30倍になる。なので、上にいくほど強烈に強くなると理解してほしい(だから下限をM3にした)。

熊本地震その後2016年05月06日 04:51

少しあいだが空いたが、5月5日までの熊本地震の観察報告をしておく。
あいかわらず揺れは続いているものの、データをみる限り確実に弱まってきており、全体傾向としては安心していいと思う(ただし、今後、震度4程度の余震は、まだあるかもしれない)。その理由は、マグニチュードにある。
グラフはマグニチュード3以上のものだけを表示しているので、それなりに回数があるようにみえる。しかし、今なお頻繁に余震が続く2011年3月の東日本大震災では重大な余震としてチェック対象になっているのはマグニチュード5以上のものだ。熊本地震は活断層型の直下地震なので、もう少し注意深くなる必要はあるが、それでもマグニチュード4以上の余震だけを考えればいいだろう。となると、4月16日未明の本震と呼ばれるもの以降、着実に減衰していることがわかる(グラフのマグニチュード4以下を隠してみてほしい)。
マグニチュードは1増えると放出されるエネルギー量は30倍違うので、このグラフも「+1=+30」と考えてほしい。したがって、あえて小さなマグニチュードの余震にびくびくする必要はない。
熊本地震の直後、大きな余震が頻発したことから、「この地震が新たな地震を誘発してもっと広い範囲に影響するのでは?」といった不安をことさらのように強調したメディアがいくつもあった。もちろん、その可能性は完全には否定しないが、しかし地震のメカニズムを考えたとき、あまりにSF的な発想だと思う。
今回のような内陸地殻内地震は、地殻内部の歪みとして蓄積されたエネルギー(元をたどればプレート活動によるもの)が消費されることで起きる。「エネルギーの放出」なのだから、地震があるたびにリスクは減っていくと考えるのが科学的には正しい解釈だ。
もちろん蓄積されているエネルギーが今までの常識では考えられないほど大きければ別の地震を誘発するかもしれないが、その場合、余震もどんどん大きくなっていくはずである。今回、そこまでの徴候はみられないので、収束に向かっていると考えたほうが自然だろう(ただし、他の地震が近い時期に起きることはありえる)。
また、よく言われる「地震と活断層の関係」に関しても誤解が多いので、このブログで近々解説する。

希望運ぶ〝一番列車〟熊本の市電再開2016年04月22日 01:08

21日までの余震データに更新しておく。

こうやって俯瞰で見ていくと、19日夕刻のマグニチュード5.5の余震がけっこう大きな存在であることがわかる。しかしそれによって、16日未明の第二波(本震)で出し切れなかったエネルギーが多めに放出され、その後の余震の頻度が減っているようだ。

ただし、地殻内にはまだ放出される可能性のあるエネルギーが残っているはずで、余震がしばらく止むと、次に多少大きな地震が来る可能性もあるので、そのあたりは注意を忘れないでほしい。

今日のニュースでうれしかったのは、熊本の市電が一部、運行を再開したという話。市電は町の活性化にとって非常に重要なツールで、残っている地方都市はどこも比較的、元気だ(だからこそ、高度成長期に市電廃止を推進した人々は猛省すべきである)。熊本もそんな町のひとつなので、いち早く市電が復活したのは実に明るい出来事である。

1995年の阪神・淡路大震災のときにも都市圏の鉄道を急いで復旧するために多くの人が苦労し、そのことが町を元気づけるのに大いに役立った。その記録は僕が編集した『旅の尻尾』という本に残したので、一段落したら、関心のある人は、ぜひ読んでほしい。絶版になっているものの、多くの図書館にあるし、amazonの中古品などでも購入できるはずだ。

熊本へ勇気と希望を2016年04月20日 02:54

20時47分ごろの大きな余震には少し驚いたが、それでも地震として放出されるエネルギーの量は着実に減衰している(グラフが画面上で表示されない場合は拡大してから画像を保存してください)。予断はできないものの、このあとも最大マグニチュード5程度の余震が数回ある程度で、徐々に落ち着いていくことを切に願う。

14日夜の第一回目の地震に比べると、16日未明の第二波(報道で本震と呼んでいるもの)の余震の収まり方が遅いが、マグニチュード6.4とマグニチュード7.3ではエネルギー量に22倍近い差があるので、その違いが表れている。今日の大きな余震もそのためだろう。

震源域が北東と南西に広がってきている点は僕も気になっているが、まだ一定の範囲に収まっているので、もう少し観察してから分析したい。いたずらに危険情報だけを強調するようなことはしないつもりだ。

熊本で再び震度6強、M7.12016年04月16日 15:35

余震を観察し続けているのだが、今回の地震は非常に規模が大きく、今後の動向がなかなか読めない。第二波についても、確実に減衰は進んでいるものの、第一波に比べて明らかに放出されているエネルギーの量(※)が多く、まだまだ揺れは続きそうだ。
被災地のみなさんにとっては辛い時間が続きますが、もう少しがんばってください。

※エネルギーの量
地震が発するエネルギーの大きさを示すマグニチュードは1増えるとエネルギーが約32倍になる。なのでこのグラフも上に行くほど飛躍的にエネルギー量が多くなっていると思ってほしい。

突風でエア滑り台倒れる2016年03月31日 13:07

30日午後、神奈川県小田原市の児童公園において、空気で膨らませるエア滑り台が突風にあおられて倒れ、児童ら11人が怪我をしたという事故。現場の対応だけでなく、その後の報道も含めて、あいかわらず科学・技術への理解が足りないと感じたので一言。

TBSの報道によると「滑り台は空気を抜いた状態で重さおよそ200キロ。20キロの重りを10個つけて固定していた」とのこと。合わせて400キログラム以上になるので「大丈夫だろう」と感じたのかもしれないが、風による力は横向きに働くので、実は重りを増やしてもあまり意味はない。実際、滑り台が吹き飛んだ映像をみると重りは順番に流されていっているので、量による効果の少ないことがわかるはずだ。

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2737216.html
https://www.youtube.com/watch?v=6TSV5TBnjVQ

逆に、重りが多いせいでリスクが高まってしまった。今回、幸いにも被害はなかったものの、風にあおられた20キロもの重りが頭にぶつかったりしたら死傷事故になりかねなかっただけに、もっと真剣に考えるべきである。この手のものを固定する場合、常識的には重りではなく地面に打ち込んだペグなどを利用すべきだ。報道では「コンクリートで舗装してあったのでできなかった」と説明があったが、それなら数十トンクラスのトラックでもそばに停め、そこからロープを張るべきだっただろう(もちろん風上に停める)。

テレビの報道でもっとも気になったのは、「以前、この滑り台の係員として働いていた」として登場した女性のコメント(TBSのサイトから引用)。

「古くて。粘着テープとかでふさいでいたので元の状態よりは不安定だったと思う。風が強すぎたり子どもがジャンプしたりすると大変でした」

この場合の「不安定」は滑り台が古くて空気が抜けやすくなっていたからで、今回の事故とは関係ない。むしろ空気が抜け気味のほうが風による力を逃がしやすいので、事故を軽くした可能性さえあるほどだ。
問題なのは、こんな無意味なコメントがそのままニュースで流れてしまうことだ。要するに、取材の現場から編集、チェックのすべての過程においてまともに科学センスのあるスタッフがいなかったということなのだろうが、それって少し恥ずかしくないか?

それから、TBSは翌日の「ひるおび!」という番組でもこの話題を採りあげ、遊技の設置基準に風速の規定があったにもかかわらず現場に風速計を用意していなかったことを指摘した。出演者たちは口々に「規定があるのにおかしいですよね」と憤っていたのだが、これもちょっと的外れだという気がする。そんなものがなくても風による事故の危険性が高まったときには滑り台そのものが揺れていたはずで、それを知った段階で使用をやめ、空気を抜けばいいからだ。数字だけに頼るより、現場ではこのような現実的な対応のほうが効果的なことは多い。

自然の風というのは10メートル離れれば状況が変わるので、小さな風速計ひとつ持っていたからといって正しい判断ができるとは限らない。さらに突風というのは平均的な風速の1.5~2倍に達するので、観測上風速5メートルだとしても10メートルの風が吹く可能性はある。風速が2倍になると生じる風圧は4倍になる。つまり、1人を相手にぎりぎり戦いを続けていたところに、いきなり3人の敵が加勢してくるようなものなのだからひとたまりもない。

簡単に設置できるエア遊具は便利なのでこれからも有効に活用すべきだろう。ただし、もう少し科学や技術の眼をもって安全に遊んでほしい。

人工知能が囲碁で勝ったからといって何?2016年03月25日 01:00

世界最強といわれる棋士に人工知能が勝ったということで、先々週あたり、ちょっとした話題になった。舞台となった韓国では今でも「人間がコンピュータに負けるわけない!」と興奮した報道がなされているそうだが、それにしてもこの騒ぎ、なんかおかしくないか?

囲碁だろうと五目並べだろうと数学によって勝つ方法が必ず導き出されるゲームは、いつかコンピュータが勝利する。これはあたりまえで、あとは「ルールが複雑なほどその時期が後に延びる」だけの話だ。どの分野であっても、いつか機械の能力は人間を上回る。これは予定された話であって、特別に騒ぐことではない。

しかしそうだからといって囲碁の魅力が失われたわけではない。機械は機械、人間は人間なので、今後も人間どうしで最強を決める戦いをすればいいだけの話だ。

だいたい、100メートル競走では150年ほど前から自動車が人間を抜いている。だからといってオリンピックの競技から外されないし、みんなもテレビに釘付けになる(「自動車より遅い」なんて誰も批判しない)。機械と人間の関係とはそういうものなのだ。

今後、さらにコンピュータが発達すると人間がいらなくなるのではないかと心配する人がいる。もちろんそれもありえない。

電信、電話、携帯電話、メールと通信システムは飛躍的に進歩し、今やコミュニケーションの大半は人と人が、直接、会わなくてもできる。しかしそれでも対面することの価値はあまり変わらず、家族も友だちも恋人も何かにつけて会いたがる。つまり人間社会の基本は変わらないのだ(進化はするが)。

実はこのあたりは科学・技術だけを見ていてもわかりにくい。むしろ経済学の理論を用いて分析していくと、無駄なお金を使ってくれないロボットだけの社会なんか成り立たないことがすぐにわかるのに、もう少し冷静に判断してほしいものだといつも思う。