日本一のバスターミナルが開業2016年04月14日 01:58

4月4日に開業したバスタ新宿に行ってみた。

バスタ新宿はJR新宿駅に直結する国内最大級のバスターミナルであり、高速路線バスの発着数は最大で1日1600便以上。24時間営業として計算すると1時間あたり約67便にもなるのだから、たしかに日本一だと思う。また隣には商業施設が入る高層ビル「JR新宿ミライナタワー」も併せてオープンしたので、新宿駅南側は一気に賑やかさを増した。

一応、解説しておくと、バスタ新宿は10年以上の期間をかけて進められてきた新宿駅南口地区基盤整備事業の一環として完成したものだ。このプロジェクトは老朽化していた新宿跨線橋(甲州街道)を通行状態のまま架け替えて道幅を広くするとともに、新たに築いた人工地盤の上にビルを建てて都市機能を強化するという大胆な計画に基づいている。日本のインフラ整備の歴史の中でも燦然と輝く大事業であり、関係者に何度か取材したことのある僕にとっても強い思い入れと大きな期待があった。

ところが、初めて足を踏み入れたバスタ新宿で感じたのは、なんともがっかりした気持ちでしかなかった。僕も高速バスに乗ることはあるので旅行者の視点で眺めてみたところ、とにかく不便だし、「これから旅に出る」という高揚感も味わえない。

理由ははっきりしている。バスターミナルの中にはいっさい商業施設がないからだ。喫茶店や立ち食いそば店はもちろんのこと、コンビニや小さな売店すらなく、あるのは飲料の自動販売機ぐらい。

「そういう機能は周囲の施設が提供するのか」と気を取り直してあたりを散策してみたのが、どうもそうではないらしい。JR新宿ミライナタワーに入る商業施設NEWoMan(※)の4階フロアはバスターミナルと直結しているのに、こじゃれたカフェが2軒あるだけで大半は物販店だ。しかもどういう基準でテナントを選んだのか知らないが、売っているものは「パリ1区に住む女性をイメージ」したワードローブだったり、「英国の伝統的な素材づかいや、ディテールにこだわったモダンでタイムレスなウェア」だったりと、バス旅行者が緊急に必要とするものではない。

じゃあ、バスに乗る前に空腹を感じた人はどうすればいいのかというと、2フロア下のJR新宿駅改札の周辺に飲食エリアが設けられているものの、なんか違うんだよなあ。感じられるコンセプトは「高級、おしゃれ、新しい……」といったあたりで、高速路線バスというローコストの交通手段を選ぶ消費者のニーズ(庶民的、わかりやすい、定番)とは真逆なのだ。

どうしてこんなちぐはぐなものになってしまったのだろうか? 企画・設計段階で綿密なマーケティング調査は行われなかったのか? いろいろ疑問を感じたので調べてみたところ、バスタ新宿の公式サイト(http://shinjuku-busterminal.co.jp/)にある「Q&A」にヒントらしきものがみつかった。

Q:売店はありますか?
A:ございません。
  飲料自動販売機をターミナル内7か所に設置しておりますのでご利用ください。

有無を言わせぬ回答から感じられるのは、新宿駅南口地区基盤整備事業における事業者ごとの役割分担だ。おそらくバスターミナルの運営会社は売店や飲食店を併設できない条件になっているのではないか。そうすることで周囲の商業施設と競合しないようにしているのだろう。

もちろん商業施設側が必要な機能を補完してくれればいいのだが、彼らは彼らでバスの利用者だけが客ではないし、少しでも単価を上げたいから「高級、おしゃれ、新しい……」といったコンセプトに走りがちになる。その結果、バスに乗る前に手軽に利用できるような売店や飲食店が生まれなかったのだと思う。

まあ、おとなの事情もいろいろあるだろうから、そのあたりはこれ以上、追求しない。とにかくそういった状況なので、バスタ新宿を利用する人はターミナルに着く前に新宿の町で必要なものを買い揃えたり、腹ごなしをしておくことを強くお勧めする(旧西口ターミナルあたりが便利なので、いったんその付近に寄ってからバスタ新宿に移動すればいい?)。

最後に大胆な予想。今後、バスの利用者が増えていくにつれ「どうしてターミナル内に売店も飲食店もないんだ」といった苦情が殺到すると思う。その結果、しばらく経つとなんらかの方法で近くにコンビニが開業するのではないか。フードコートもできて成田空港の第三ターミナルみたいになればいいなあ……と一介の旅行者は無責任に願うのである。

※NEWoMan
公式サイトはここ。https://www.newoman.jp/
これ、どう思いますか? 外国のメディアを真似たくて英字やイメージ写真を多用するあまり、どのページもわかりにくいし、とにかく全体像がつかめない。なかでも2Fの店については、JR駅の改札内なのか外なのか、いちいちマップをみないとはっきりしないのは致命的だろう。
若いデザイナー(たぶん)がとんがった仕事をすることはよくある。しかし普通はプレゼンの段階で「おとな」が注意し、バランスを保つようにするのが正しいメディアの制作手順だ。なのにそれがまったくできていない点に、バスタ新宿を含めた開発プロジェクトの未熟性を感じる。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://happy-go-lucky.asablo.jp/blog/2016/04/14/8070850/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。