突風でエア滑り台倒れる2016年03月31日 13:07

30日午後、神奈川県小田原市の児童公園において、空気で膨らませるエア滑り台が突風にあおられて倒れ、児童ら11人が怪我をしたという事故。現場の対応だけでなく、その後の報道も含めて、あいかわらず科学・技術への理解が足りないと感じたので一言。

TBSの報道によると「滑り台は空気を抜いた状態で重さおよそ200キロ。20キロの重りを10個つけて固定していた」とのこと。合わせて400キログラム以上になるので「大丈夫だろう」と感じたのかもしれないが、風による力は横向きに働くので、実は重りを増やしてもあまり意味はない。実際、滑り台が吹き飛んだ映像をみると重りは順番に流されていっているので、量による効果の少ないことがわかるはずだ。

http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2737216.html
https://www.youtube.com/watch?v=6TSV5TBnjVQ

逆に、重りが多いせいでリスクが高まってしまった。今回、幸いにも被害はなかったものの、風にあおられた20キロもの重りが頭にぶつかったりしたら死傷事故になりかねなかっただけに、もっと真剣に考えるべきである。この手のものを固定する場合、常識的には重りではなく地面に打ち込んだペグなどを利用すべきだ。報道では「コンクリートで舗装してあったのでできなかった」と説明があったが、それなら数十トンクラスのトラックでもそばに停め、そこからロープを張るべきだっただろう(もちろん風上に停める)。

テレビの報道でもっとも気になったのは、「以前、この滑り台の係員として働いていた」として登場した女性のコメント(TBSのサイトから引用)。

「古くて。粘着テープとかでふさいでいたので元の状態よりは不安定だったと思う。風が強すぎたり子どもがジャンプしたりすると大変でした」

この場合の「不安定」は滑り台が古くて空気が抜けやすくなっていたからで、今回の事故とは関係ない。むしろ空気が抜け気味のほうが風による力を逃がしやすいので、事故を軽くした可能性さえあるほどだ。
問題なのは、こんな無意味なコメントがそのままニュースで流れてしまうことだ。要するに、取材の現場から編集、チェックのすべての過程においてまともに科学センスのあるスタッフがいなかったということなのだろうが、それって少し恥ずかしくないか?

それから、TBSは翌日の「ひるおび!」という番組でもこの話題を採りあげ、遊技の設置基準に風速の規定があったにもかかわらず現場に風速計を用意していなかったことを指摘した。出演者たちは口々に「規定があるのにおかしいですよね」と憤っていたのだが、これもちょっと的外れだという気がする。そんなものがなくても風による事故の危険性が高まったときには滑り台そのものが揺れていたはずで、それを知った段階で使用をやめ、空気を抜けばいいからだ。数字だけに頼るより、現場ではこのような現実的な対応のほうが効果的なことは多い。

自然の風というのは10メートル離れれば状況が変わるので、小さな風速計ひとつ持っていたからといって正しい判断ができるとは限らない。さらに突風というのは平均的な風速の1.5~2倍に達するので、観測上風速5メートルだとしても10メートルの風が吹く可能性はある。風速が2倍になると生じる風圧は4倍になる。つまり、1人を相手にぎりぎり戦いを続けていたところに、いきなり3人の敵が加勢してくるようなものなのだからひとたまりもない。

簡単に設置できるエア遊具は便利なのでこれからも有効に活用すべきだろう。ただし、もう少し科学や技術の眼をもって安全に遊んでほしい。

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