ジャングルジム火災事件、白熱電球だけの問題なのか?2016年11月08日 03:57

イベント展示物だった木製ジャングルジムの火災事件、被害にあわれたお子さんのご冥福を心からお祈りする。

当初は「予期できなかった事故」といったトーンの報道がなされたので、僕も「木製とはいえ、そんなに急激に燃えるわけではないから、いくつかの不幸が重なったのでは?」と軽く考えていたのだが、上の写真を見て驚いた。そして即座に「これはだめだろう」と確信する。

ニュースに出てくる事故直前の映像では子供たちがだいぶ遊んだせいか木くずが減ってきているが、製作してまもないと思われるこのシーンではたっぷり詰まっている。そしてこれを見ると、まるで「木の枠を燃やそうとする準備」をしているようだ。木くずは紙より燃えやすいので焚きつけとしては最適である。そんなものを満載したら、火が着いた場合、一瞬で燃え広がるのは当然だ。

どんな作品でも展示する自由はある。しかし、そこになんらかのリスクがあるなら、充分な対策をしておかなくてはならない。この場合でいえば上からシャワーを浴びせられるような散水装置を配置し、いざというときにはスプリンクラーのように燃え広がるのを遅らせるとか、そういった工夫だ。他にも充分な数の消火器と水バケツ、それにちゃんと対応できるスタッフによる監視は不可欠だったと思う。

報道では白熱電球を利用したことばかりに疑問が集中した。たしかにそれが直接の原因なのかもしれないが、ただ、照明を使わなかったとしてもこの作品には問題が残る。なぜなら、もし不審者が近づいてライターなどで放火したら同じ結果になるからだ。とにかく一瞬で燃え広がる構造物である以上、あらゆる事態を想定して対策をしておくのは設置者の義務である。

不思議なのは、この作品が建築学の関係者によって製作・設置されていたという点だ。彼らは当然、防火に関する技術や法規の知識を専門家としてもっているはずで、こんな構造であれば危険性が高いことは察知していなければならない。「後出し」だと思われるのを承知のうえで書くと、もし僕が事前にこの場にいれば「燃えやすそうだが対策は万全なのか?」と質問していたと思う(だって、どう考えても焚き火直前の風景にしか見えない)。それくらい危険な構造物であり、だからこそ白熱電球を近づけたなんてもってのほかなのだ。

製作・展示に関わったのは日本工業大学の生徒やスタッフだそうで、技術系なのに教授も含めてひとりもこの作品の火災リスクに気づかなかったとしたらプロ失格である(これは建築や設備の関係者ならみんな感じたと思う)。さらにいえば、このイベントには関係者以外の専門家もたくさん来場し、作品を見ているのに、なぜ誰もアドバイスしなかったのか?

最後に「後出し」ではない指摘をさせていただく。ジャングルジムのような遊具で視界を塞ぐ物体(今回は木くず)を付け加えること自体、かなり乱暴な冒険だ。前が見えにくい分、頭をぶつける危険性は著しく高まるのだから、このような作品を展示したければ一般の参加者に遊ばせるべきではない。

そもそも前衛を目指す芸術作品を判断力も未発達な幼い子供に自由に開放したという点において、この人たちは本質をわかっていない。前衛芸術とは今を徹底的に否定したところから始まるのだから、作品の出来がいいほど子供が安全に遊べるわけないのである。

もし、本当に自信のある作品を子供に使ってもらう場合には、常に監視を怠らない。少なくとも真っ当な美術館ではそうしているのであって(金沢21世紀美術館のスイミング・プール上階では落ちても大丈夫なように警備員が見張っている)、そんなことも知らなかったことが、「前衛」の作者として相当に恥ずかしいと思う。