韓国で始まった新たな「ゲーム」2016年11月02日 02:36

韓国の大統領が権限もない友人に国家機密を漏洩したのではないかと疑われている事件について、日本における一連の報道には何かもの足りなさを感じる。なぜなら、この国が巨大な「いじめ社会」であることをちゃんと説明していないからだ。

韓国では常に勝ち組と負け組が明確に分けられる。ただし、この分類は実際に勝ったとか負けたといった結果によるものではないし、多数派対少数派という単純な図式でもない。そのときどきで、より「力がありそう」なほうが勝ち組となり、劣勢になった負け組を徹底的に押さえつける。しかも、その構図は状況によって刻々と変化していくので、見極めが大変だ。すばやく勝ち組の法則を探り出し、そっち側であることを示さないと自動的に負け組にされてしまう。勝ち負けを決めるのは一種のムードであったりすることも多いので、流行に乗り遅れないように、いつもびくびくしながらゲームに参加しなければならない。

大統領は、当然、勝ち組の中心にいるはずだ。だから多くの人が群がり、恩恵を受けようとする。しかし韓国の大統領制では5年間の任期しか認められず、再選は禁止されているので、終盤の4、5年目となると、どうしても、きな臭い動きが起きてくる。

任期が終われば大統領は絶対に交代し、権力構造も変わるのだから、次の勝ち組がどこになるのか早めに察知し、そっちに付かなければ大損だ。ちなみに、退任した「元」大統領は負け組になるので、その後はさまざまな攻撃を受け、不幸な末路をたどるケースが圧倒的に多い。

朴槿恵大統領の場合も、来年の2月で「あと1年」になるはずだったので、そのあたりからいろいろな動きが始まると考えていたら、今回の問題でスケジュールが一気に早まり、批判が集中してしまった。かわいそうな気もするが、身から出た錆なのでしょうがない。

彼女を以前から知る日本人は、それなりにバランス感覚のある政治家であり、しかも父親の朴正煕元大統領が旧日本軍の将校であったことから親日家だとみなしていた。実際、日本に対して特に悪い感情をもっている素振りはなかったという(日本料理店によく行き、蕎麦が好きだったとの証言がある)。ところが、大統領になった瞬間から、なぜか反日カードを切りまくり、周囲を驚かせた。豹変の理由については、ずっと謎とされてきただけに、崔順実なる人物にコントロールされていたのだとしたら、合点がいく。

ところで、崔氏がソウルの中央地方検察庁に出頭した翌日の朝、それとは違う最高検察庁にショベルカー(先端の鋏みたいなのは解体用のグラップルアタッチメント)で突っ込んでいった男が現れ、事件は悲劇なんだか喜劇なんだかわからなくなってきた。おそらく、この犯人は2週間前まで崔氏のことも知らなかったはずで、どうしてこんな行動に出たのか、わかるのは韓国人だけだろう。

この男の行いが「義憤に駆られた」ものだと決めつけるのは、たぶんまちがいだ。先ほどの「いじめ社会」の筋でいえば、もしかすると彼は冷静に計算して今回の行動に出たのかもしれない。どういうかたちであれ、負け組転落確定の朴大統領一派に一撃を与えたという印象を得れば次の勝ち組のシンボルになれる。事実、韓国のネットでは彼のことを英雄視する書き込みが目立つので(国際的にはただの馬鹿だが)、釈放後はイベントに呼ばれたり、講演をしたりして、けっこう、いい思いができそうだ。

今回の件を含め、韓国社会はなかなか袋小路から抜け出せない。実は経済や技術における危機的な状況について近々書こうと思っていたのだが、興味深いニュースがあったので、こっちを優先した。

ジャングルジム火災事件、白熱電球だけの問題なのか?2016年11月08日 03:57

イベント展示物だった木製ジャングルジムの火災事件、被害にあわれたお子さんのご冥福を心からお祈りする。

当初は「予期できなかった事故」といったトーンの報道がなされたので、僕も「木製とはいえ、そんなに急激に燃えるわけではないから、いくつかの不幸が重なったのでは?」と軽く考えていたのだが、上の写真を見て驚いた。そして即座に「これはだめだろう」と確信する。

ニュースに出てくる事故直前の映像では子供たちがだいぶ遊んだせいか木くずが減ってきているが、製作してまもないと思われるこのシーンではたっぷり詰まっている。そしてこれを見ると、まるで「木の枠を燃やそうとする準備」をしているようだ。木くずは紙より燃えやすいので焚きつけとしては最適である。そんなものを満載したら、火が着いた場合、一瞬で燃え広がるのは当然だ。

どんな作品でも展示する自由はある。しかし、そこになんらかのリスクがあるなら、充分な対策をしておかなくてはならない。この場合でいえば上からシャワーを浴びせられるような散水装置を配置し、いざというときにはスプリンクラーのように燃え広がるのを遅らせるとか、そういった工夫だ。他にも充分な数の消火器と水バケツ、それにちゃんと対応できるスタッフによる監視は不可欠だったと思う。

報道では白熱電球を利用したことばかりに疑問が集中した。たしかにそれが直接の原因なのかもしれないが、ただ、照明を使わなかったとしてもこの作品には問題が残る。なぜなら、もし不審者が近づいてライターなどで放火したら同じ結果になるからだ。とにかく一瞬で燃え広がる構造物である以上、あらゆる事態を想定して対策をしておくのは設置者の義務である。

不思議なのは、この作品が建築学の関係者によって製作・設置されていたという点だ。彼らは当然、防火に関する技術や法規の知識を専門家としてもっているはずで、こんな構造であれば危険性が高いことは察知していなければならない。「後出し」だと思われるのを承知のうえで書くと、もし僕が事前にこの場にいれば「燃えやすそうだが対策は万全なのか?」と質問していたと思う(だって、どう考えても焚き火直前の風景にしか見えない)。それくらい危険な構造物であり、だからこそ白熱電球を近づけたなんてもってのほかなのだ。

製作・展示に関わったのは日本工業大学の生徒やスタッフだそうで、技術系なのに教授も含めてひとりもこの作品の火災リスクに気づかなかったとしたらプロ失格である(これは建築や設備の関係者ならみんな感じたと思う)。さらにいえば、このイベントには関係者以外の専門家もたくさん来場し、作品を見ているのに、なぜ誰もアドバイスしなかったのか?

最後に「後出し」ではない指摘をさせていただく。ジャングルジムのような遊具で視界を塞ぐ物体(今回は木くず)を付け加えること自体、かなり乱暴な冒険だ。前が見えにくい分、頭をぶつける危険性は著しく高まるのだから、このような作品を展示したければ一般の参加者に遊ばせるべきではない。

そもそも前衛を目指す芸術作品を判断力も未発達な幼い子供に自由に開放したという点において、この人たちは本質をわかっていない。前衛芸術とは今を徹底的に否定したところから始まるのだから、作品の出来がいいほど子供が安全に遊べるわけないのである。

もし、本当に自信のある作品を子供に使ってもらう場合には、常に監視を怠らない。少なくとも真っ当な美術館ではそうしているのであって(金沢21世紀美術館のスイミング・プール上階では落ちても大丈夫なように警備員が見張っている)、そんなことも知らなかったことが、「前衛」の作者として相当に恥ずかしいと思う。